弘法にも筆の誤り。
必勝を期した渡辺名人が先手番で負けた。
これほどの達人でもミスがあるのだから、妾がミスをするのは当然、と自分を慰めている。
これで渡辺名人のアドバンテージがなくなったわけだが、この名人戦はいままで三局とも渡辺優勢で進んでいる。
一度も、渡辺名人が逆転勝ちを収めたことはない。つまり、地力の上では渡辺名人のほうが上だということだ。
逆転勝ち、というとなにやら華々しくカッコよく映るが、強い人はまず劣勢に陥らない。
この将棋も、本来なら渡辺名人が勝っていた将棋を、勝負手でひっくり返したものだ。
こういう勝ち方が出来なければ上へは上がれないが、こういう勝ち方だけでも上へは上がれない。
次局は斎藤八段の先手番だ。
ここで勝てればまだまだ勝負はわからなくなるが、それは渡辺名人にもわかっていること。
今回以上に必勝を期してくることだろう。